Mizudori’s home

二次創作まとめ

桃色空間

【サトセレ】

■アニポケXY

■アニメ本編時間軸

■SS

 

***

 

“異文化交流フェスティバル”
そんな魅力的な文字が並んだポスターを目にし、サトシたち4人は色めき立つ。
ポスターに表記されていた会場広場に向かうと、そこは派手な賑わいを見せていた。
会場の入り口に建てられたのぼりには、大きな字で“フェスティバル1日目、カントーフェア”と描かれている。
その文字を視界に入れ、サトシは目を輝かせた。
なにせ自分の出身地が特集されている祭りである。
魅力を感じないわけがない。


カントーかぁ、懐かしいなピカチュウ!」
「ピッカァ!」
「あいつら、もう着いてるかな?」


目を輝かせながら周りを見渡すサトシ。
その後ろからは、立ち並ぶ屋台たちを物珍しそうに眺めるセレナやシトロン、ユリーカが着いてきている。
カロス出身の彼らにとって、このカントー地方を彷彿とさせる空気は慣れないのだろう。
サトシは待ち合わせ場所として設定された会場の真ん中に立ち、目的の人物たちを探す。
キョロキョロとしばらく辺りを見渡すと、少し離れた場所に懐かしい後ろ姿を見つけた。
いた!
サトシはパッと表情を明るくさせ、一目散にその2つの人影に向け走り出す。

それは数日前の事だった。
サトシたち4人が宿泊しているポケモンセンターに、マサラタウンの母から連絡が来たのだ。
“カロスのとある町で、異文化交流フェスティバルが開催される。様々な地方を特集するそのお祭りで、1日目はカントーフェスをやるらしい”と。
カントー出身のサトシがその祭りに興味を示すのは自然な流れであり、セレナたち他の3人も、異論なくその祭りに行きたいとの意思を示してくれた。

サトシを喜ばせたのは、それだけではない。
さらに母から嬉しい知らせが届いたのだ。
かつて一緒にカントーを旅したあの2人が、この祭りに遊びに来る。
そのニュースはサトシを歓喜させた。
彼にとってその仲間たちは、自分が新人トレーナーだった頃から親しくしていた、いわば親友である。
そんな彼らと、久しぶりに会える。
サトシは今日という日が楽しみで仕方がなかったのだ。
そして、訪れたこの会場で、懐かしい姿を見つけ、明るい声で呼びかける。


「カスミー!タケシー!」


懐かしい声に名前を呼ばれ、振り返った彼らは優しい微笑みを見せてくれる。
ピカチュウを肩に乗せ、駆け寄って来たかつての仲間は少しだけ大人びて見えた。
けれど、あの明るい笑顔は昔と何1つ変わっていない。
自分たちのよく知る“サトシ”の登場に、カスミとタケシは密かに安堵した。


「久しぶりだな、サトシ」
「元気してた?」
「おう!勿論!2人とも元気そうで安心したよ」


サトシが2人のすぐ側にやって来た途端、肩に乗っていたピカチュウが勢いよくカスミの胸に飛び込んで来た。
昔は彼に全く懐いていなかったこの黄色い相棒も、今やサトシにとって唯一無二の存在となっている。
そんなピカチュウシマシマ模様の背を撫でながら、カスミは首をかしげた。
サトシのやつ、こんなに背が大きかったっけ?
自分よりも背が低いところは昔と変わらないが、それでも以前会った時に比べて少しだけ大きくなった気がした。
その事実は時間の経過を感じさせ、カスミに僅かな切なさを与える。


「カロスでの旅は順調か?」
「ああ!色んなポケモンに会えたし、すっごく楽しいよ!新しい仲間もいい奴らばっかりだしな」


そう言って振り返るサトシは、思わず言葉を失った。
後ろからセレナたちが付いて来ているものだと思っていたが、どうやら自分ははしゃぎ過ぎたらしい。
全力でカスミとタケシに駆け寄ったため、セレナたちとは随分距離が離れてしまった。
ようやくサトシに追いついたセレナとユリーカは、少しだけ息を乱している。
さらにその後ろから、ぜえぜえと盛大に息切れを起こすシトロンが追いついた。
勝手に走り去ってしまった事で3人に負担をかけてしまったと知り、サトシは少しだけ後悔の念に苛まれた。


「あ、悪い。イキナリ走り出して」
「う、うん。大丈夫
「ねぇねぇ、その人たちがサトシの前の旅仲間!?」


興味津々な表情で聞いて来るユリーカに、サトシは満面の笑みで頷いた。
カスミとタケシを紹介すると、3人は和かに挨拶を交わして行く。
カスミやタケシの方が少しだけ年上という事もあり、セレナたちは妙に遠慮気味だ。
しかし、そんな遠慮がちな空気を良い意味で壊してしまう存在がこの場にはいた。
ユリーカである。


「カスミさんキープ!お願い!お兄ちゃんをシルブプレ!」
「しるぶ、ぷれ……?」


跪き、満面の笑みで利き手を差し出すユリーカの姿に、カスミ本人はキョトンとした表情を見せる。
隣でその様子を見ていたタケシも、同じように頭に“?”マークを浮かべていた。
吹き出すサトシ。
慌てるセレナ。
そして顔を真っ赤にしながらエイパムアームを起動させるシトロン。
アームに掴まれたユリーカは、いとも簡単に持ち上げられる。


「ユリーカ!それはやめろって何度も言ってるだろ!?」
「だってカスミさん綺麗で素敵なんだもん!」
「小さな親切大きなお世話です!」


真っ赤な顔で怒鳴り散らすシトロン。
そんな兄の怒号を聞きながらも、ユリーカは舌を出しててへへと笑っている。
そんな兄弟のやりとりはサトシやセレナにとって見慣れたものだが、カスミやタケシにとっては珍しい事この上ない。
ユリーカの素直な賛辞に、今度はカスミが頬を染めることになる。


「綺麗で素敵だなんてそんなぁ〜」
ギャラドス相手に褒めすぎだよなぁ」
「なんですってぇ!?」


しおらしく頬を染めて照れるカスミの姿は可憐だが、小さく呟かれたサトシの言葉に、その表情は一瞬にして怒りに染まる。
サトシの小さな耳を思いっきり引っ張り上げるその姿は、まさに“ギャラドスの怒り”。
自分たちにとって頼れるリーダーであるサトシが、カスミ相手に耳を引っ張られ、“いだだだだ!”と悲鳴をあげるその光景は、セレナたちにとって驚愕以外の何物でもなかった。


「まぁ見ての通り、カスミはやめておいた方がいいぞ」


この恐ろしい光景に眉ひとつ動かさず、タケシは細目を柔らかく微笑ませて言った。
そんな彼らの様子に、セレナとシトロンは虚しく苦笑いをこぼす。
未だエイパムアームに掴まれたユリーカは、掴まれた耳を真っ赤にしているサトシを指差し、声をあげて笑うのだった。

一通り祭り会場を巡った後、6人はお昼をとろうと祭り会場から離れ、人の少ない公園へ向かう。
祭りで売られているカントー料理を食べる事も出来たが、今日は屋台料理ではなくタケシの手料理を食べる流れとなった。
日頃からタケシの料理上手な噂を聞いていたセレナたち3人からの提案である。
もちろんタケシは二つ返事で了承し、さっそく彼の手料理がこの公園にて振る舞われた。
サトシにとってタケシの料理は、自分が旅立った当時を想起させる思い出の料理であり、第二のおふくろの味とも言える存在である。
久しぶりに口にする懐かしいその味は、彼を感動させる。


「うわぁ!シトロンのお料理も美味しいけど、タケシさんの料理もすっごく美味しい」
「へぇ、いつもはシトロンが作っているのか」


感心するように発せられたセレナの言葉に、タケシが反応を示す。
自分と別れた後、料理が不得意なサトシは一体どうやって食べているのだろうかと心配していたが、きちんと料理ができる仲間がいてよかった。
自分に向けられたタケシの視線に照れながら、シトロンは“ええ、まぁ”と後頭部をポリポリと掻く。


「ここまでうまく作れませんが、一応作れます」
「お兄ちゃんはね、カラクリを使って料理を作るんだよ!」
「ほう、カラクリで……。それは是非やり方を教えて欲しいな」
「いえいえこちらこそ、タケシさんの腕を伝授していただきたいですよ!今度このシチューの作り方を教えていただけませんか?」


目を煌めかせて教えを請うシトロンに、タケシは快く承諾した。
どうやらこの2人は気が合うようだ。
サトシが思った以上に早く打ち解けている。
自分の友人同士がこうして意気投合する光景は、不思議でもあり喜ばしくもある。
盛り上がる2人を見ながら、サトシはサンドイッチをつまみつつ笑顔をこぼすのだった。


「料理といえばさ、セレナもお菓子づくりが上手いんだぜ!な?セレナ」
「え?私?」
「ポフレとかクッキーとかマカロンとか、セレナの作るお菓子は全部美味いんだ!カスミに見習わせたいくらい」
「あんたさっきからいい度胸ね」


タケシとは違い、料理やお菓子づくりが大の苦手だったカスミにとって、サトシのその言葉は青筋が浮かび上がるほどの攻撃力を秘めていた。
シトロンやユリーカも笑顔で頷いていることから、セレナのお菓子作りの腕は確かなものらしい。
是非彼女の作るお菓子を食べてみたいものだと思い、セレナへと視線を向けるタケシだったが、その表情を目にし、思わず固まってしまう。
サトシから盛大に褒めちぎられたセレナは、頬を可愛らしく赤らめて嬉しそうに俯いていたのだ。
その表情は単なる“照れ”とは明らかに違う。
まるで恋をする乙女のような、そんな顔だった。
セレナのそんな表情にカスミも気付いたらしく、タケシは彼女と顔を見合わせる。


「っくしゅん!」
「セレナ、大丈夫か?」
「うん。ちょっと冷えて来たみたい」


少しだけ冷たい風が吹き、セレナは小さなくしゃみをする。
その可愛らしいくしゃみにいち早く反応したのはサトシであった。
少しだけ寒いと訴える彼女の言葉を聞き、サトシは素早く自分の青い上着を脱ぐ。
そしてその上着を華奢な彼女の肩にかけてやると、セレナは赤い顔で驚きの表情を見せる。


「それ、着てろよ。風邪ひかないようにな」
「あ、ありがとうサトシ」
「おう」


サトシとセレナのそんなやりとりを目の前に、タケシは持っていたサンドイッチを、カスミはスプーンをポロリと落としてしまう。
2人の口は見事に半開きで、驚きを隠せないとでも言いたげな、そんな間の抜けた顔をしていた。


「タケシ、なにあれ。私あんな紳士なサトシ知らない」
「安心しろカスミ。俺もだ」


2人が知る“サトシ”という少年は、随分と鈍感で、ポケモン以外には全くと言っていいほど興味を示さないような人物だった。
そんな彼が、隣に座っている同年代の女の子を純粋に褒め称え、そして優しさを見せている。
その光景はカスミやタケシにとって妙に違和感のあるものだった。
一体いつ、どこでそんな優しさの使い方を覚えたのか。
そして一体いつ、どこでそんな可愛い女の子から好意を抱かれるほどの男になったのか。
2人には全く見当がつかなかった。


「サトシとセレナは割といつもあんな感じだよ?ね、お兄ちゃん」
「ええ、そうですね。だいたいあんな感じです」


なにやら不思議がっている2人の様子に首を傾げ、デデンネのヒゲを触っていたユリーカが横槍を入れる。
賛同を求められたシトロンも全く戸惑うことなく頷き、これが彼らの日常であるということがよく分かる。
目の前で楽しそうにセレナと談笑するサトシ。
そしてそんな彼に頬を染めながら相槌をうつセレナ。
この桃色空間を作り上げている片割れが、あのサトシだとは到底思えず、カスミとタケシはただただ言葉を失うのだった。


END