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二次創作まとめ

ヤキモチコントロール

【サトセレ】

■アニポケXY

■未来捏造

■SS

 

***

 

それは偶然の遭遇だった。
とあるショッピングモールに出掛けたサトシとセレナは、人混みの中で見覚えのある1組の男女を見つけた。
腕を組んで向こう側から歩いてくる2人もこちらに気付いたようで、驚いた表情を浮かべながら手を振ってくる。
数年ぶりに再会した2人、ハルカとシュウは、サトシが知らない間に恋人同士となっていた。

ショッピングモールの一角にある人気のカフェで、4人は1つのテーブルを囲って談笑する。
キャラメルラテを飲みながらニューヨークチーズケーキを頬張るハルカは実に幸せそうで、子供の頃から何も変わっていないことをサトシに教えてくれる。
しかし、隣同士で座るハルカとシュウの雰囲気は、明らかに昔と変わっていた。
その答えは、本人たちの口から語られることとなる。


「え!?ハルカとシュウ、付き合ってたのか?」


あまりに大声をあげたため、膝上でクッキーを食べていたピカチュウがピクリと体を震わせる。
シュウはともかく、ハルカとはかなり交流が深かったため、その事実はサトシにとってかなり驚愕するものであった。
しかもその事実を、自分のパートナーであるセレナは知っていて、自分だけが知らないという状況がさらにサトシを愕然とさせる。


「なんでセレナは知ってて俺は知らないんだよ
「セレナと僕たちは、彼女がホウエンに武者修行に来ていた時から交流があったからね」
「シュウとの仲を相談するのは当然の流れかも!」


サトシたちとのカロス旅が終わったすぐ後、セレナは単身ホウエンへと向かっていた。
武者修行のためコンテストへの参加を繰り返す中、彼女はホウエンで人気を博していたコーディネーター・ハルカとシュウに出会う。
お互いの演技に刺激を受けていた3人はすぐに意気投合し、友人として交流を深めていったのだ。
特にハルカとセレナは同性ということもあり、プライベートの話も聞く機会が多かった。
セレナが自分のかつての仲間であるサトシに想いを寄せているらしいと聞き、腰を抜かすほど驚いたことはハルカの記憶に新しい。


「僕らからしてみれば、2人が付き合う方が驚いたけどね」
「そうそう!あの鈍感なサトシが女の子と付き合うなんてビックリかも!」


シュウと顔を合わせて笑い合うハルカ。
自分にとって妹のような存在である彼女の言葉に、サトシは密かに眉をひそめる。
幼い頃から“鈍感だ”と言われ続けていたサトシにとって、その言葉は頭の痛い指摘でもあった。
セレナは隣で苦笑いを浮かべているが、自分の鈍感さが原因で彼女を待たせてしまっていた事実はサトシに罪悪感を与える。


「ねぇ、よかったらハルカとシュウも一緒に行かない?」


フロマージュを食べ終えたセレナが、ナプキンで口元を拭きながら提案する。
そんな彼女の言葉に、正面に座っていたハルカとシュウは一瞬だけ戸惑ったような顔を見せるが、すぐに口元に笑みを浮かべた。


「いいの?」
「もちろん!ね?サトシ」
「ん?ああ。久しぶりに会ったんだし、折角だから一緒に行こうぜ」


ハルカやシュウはサトシにとって友人と言える存在。
彼らが同行することに、何の不快感や不都合など感じるはずもなかった。
特に迷うことなく首を縦に振れば、2人は表情を明るくさせる。
こうして今日一日中、サトシ、セレナ、ハルカ、シュウという不思議な組み合わせのダブルデートが実現したのだ。

このショッピングモールは大きい。
回りきるのにはずいぶん時間がかかるが、デートにはうってつけである。
若い女性向けのブランドショップが立ち並ぶフロアに差し掛かると、途端にセレナとハルカは色めき立つ。
流行りのスカートがどうのだとか、新作のワンピースがどうのだとか、男性陣にはよくわからない会話を展開している。
付き添うサトシとシュウは少々退屈そうにその光景を眺めているが、それが不満というわけでもなさそうだ。

そんな中、4人はとある雑貨店へと入り込む。
ポケモンをモチーフにした小物が数多く並ぶそのショップは、トレーナーである4人の心を惹きつける。
レジ近くの棚を物色していたセレナだったが、1つのマグネットを見つけて頬を染めた。
フォッコの顔型マグネットである。


「うわぁ、これ可愛い。ねぇ見てサト


マグネットを手に、背後にいるであろうサトシに振り向くセレナだったが、愛しいその名前を呼ぼうとしてすぐにやめた。
少し離れた棚の前で、サトシとハルカはピカチュウ型のポーチを片手に楽しそうに談笑している。
ただの友人にしては近いその距離感に、セレナは一瞬だけ自分の胸にどす黒いものが這い上がってくるのを感じた。
そして、それをかき消すように視線をそらす。

何を考えているんだろう。
あの2人が、まるで兄妹のような友人関係を築いている事くらい、もう何年も前から知っているはずなのに。
手に握ったフォッコ型のマグネットを見つめ、セレナはため息をつく。
サトシの彼女は自分。
こんな感情を抱くなんて、なんて器の小さい女だろう。
自分から誘ったくせに、嫉妬という醜い感情を隠し持ってしまっている。
そんな自分が情けなくて、嫌いだった。


「可愛いね、それ」


すぐ横から聞こえた声に反応してみると、そこには緑髪の整った顔がある。
横から手を出したシュウは、数多く並ぶマグネットの中から1つだけ選んで手に取る。
彼の相棒でもある、ロズレイドのマグネットであった。


「こういうの、好きなの?」
……うん。かわいいじゃない?」
「そうだね。ほら、ニンフィアもある」
「ホントだ!アブソルもあるよ!」


この店のラインナップは随分豊富なようで、二人が大切にしているポケモンたちのマグネットはほとんど揃っている。
シュウと並び、あれも可愛いこれも可愛いと指を指し合ううち、セレナの表情には僅かながら笑顔が戻っていた。


「あんまり気にしないほうがいいよ」
「え?」
「あの二人は割と鈍感だから」


マグネットをいくつか手に取ったまま、シュウは呟く。
そんな彼にセレナは驚くが、シュウが何のことを言っているのかはすぐに分かってしまう。
先程まで自分の胸に燻っていた黒い感情の原因だ。
サトシの彼女はセレナだが、ハルカの彼氏はシュウである。
サトシとハルカがパーソナルスペースというものをまるっきり無視して距離を詰めているあの光景は、シュウにとっても面白くないのではないだろうか。
長い睫毛を伏せながらロズレイドのマグネットを見つめるシュウに視線を向けながら、セレナは問いかける。


「シュウは、嫉妬とかしないの?」
「するよ。とっても」


あまりの即答に、セレナは面食らう。
いつでも余裕たっぷりな彼のことだから、きっと“そんなことはない”と断言してしまうと予想していたから。
ホウエンでは女性ファンも多いイケメンコーディネーター・シュウ。
彼から嫉妬されるほどのハルカは、きっと幸せ者なのだろう。
彼女本人は全く気づいていないだろうが。


「こういうのは駆け引きだよ」


そう言って微笑むシュウの顔は、何故だか楽しげである。
まるで嫉妬しているとは感じさせないほどに。
この人は昔からスマートで、何を考えているのかイマイチわからない。
そんな事を考えていると、シュウは横から手を伸ばし、セレナが持っていたフォッコ型のマグネットを手に取る。
突然自分の持ち物が奪われ、セレナは驚いてシュウの顔に目にやった。


「これ、買おうか」
「え、でも……。いいの?」
「僕も気に入ったからさ。フォッコ型のでいいよね?」
「うん。嬉しい、ありがとう!」


レジに向かったシュウは、素早く会計を済ませ、2つの紙袋を手に戻ってきた。
そのうち1つをセレナに手渡すと、彼女の背に手をやって店を出ようと促す。
シュウが買ってくれたその小袋を抱えながら店を出ると、そこにはいつの間にか先に店から出ていたサトシとハルカの姿があった。
2人は何故だか不機嫌になっているようで、随分険しい顔をこちらに向けている。
店からお揃いの小袋を抱えて出てきたセレナとシュウに目を向け、2人はさらに表情を仮託させた。
そして、足早に近付くとサトシはセレナの、ハルカはシュウの腕を掴む。


「シュウ、ちょっと来て欲しいかも!」
「ん?」
「セレナ、行くぞ」
「え?」


セレナとシュウは、お互いのパートナーに腕を掴まれて引き離される。
反対方向に歩き始めたため、必然的にサトシとセレナ、ハルカとシュウに別れてしまう。
一緒に行動しようという事になったのに、何故突然別行動を始めるのだろう。
サトシに引っ張られながら疑問を感じ、ハルカがシュウを引っ張って行った後ろへと振り向く。
セレナの目に入って来たのは、真っ赤な顔をしながらシュウの腕を引っ張り、何やら文句を言っているハルカと、それを小さく微笑みながら聞いているシュウの姿。
どんどん離れて行く2人から視線を外し、セレナは自分を引っ張るサトシへと視線を向ける。
肩に乗っているピカチュウと目が合うが、彼は苦笑いを浮かべたまま何も言ってはくれなかった。


「ちょっ、ちょっとサトシ?ハルカたちいいの?」
「ああ」
……あの」
「ん?」
「なんか、怒ってる?」


その質問を受け、サトシはようやく足を止める。
様子がおかしい彼の表情は、背中を向けられているため覗くことが出来ない。
彼がどんな顔をしているのかは分からないが、あまりいい雰囲気ではない事はよく分かる。
どうしよう。
謝ったほうがいいのだろうけど、どうして怒らせてしまったのかよく分からない。
曖昧な謝罪ほど腹の立つものはないだろう。
セレナは戸惑っていた。
なんとか言葉を選ぼうと、必死に考えを巡らせるセレナの思考をストップさせるように、サトシはそっと口を開く。


「セレナ、俺。自分が思ってるよりもずっと器が小さいみたいだ」
「サト、シ?」
「友達だって分かってるはずなんだ。なのに、セレナが他の男といるだけで、こんなにイラついてる自分がいる」


サトシの背中は、やけに小さく見えた。
いつもは鈍感で、こちらが翻弄されてばかりなのに、時々こうして投下される爆弾はセレナの胸をキュンと締め付ける。


「嫉妬、してくれてたの?」


家族連れ、恋人同士、友達同士。
色々な団体が2人の周りを歩いている。
周囲はざわついているハズなのに、どうしてかセレナの耳には何も入ってこない。
恐る恐る問いかけられた質問に、サトシが答える事はなかった。
けれど、セレナの手を握るサトシの手にぎゅっと力が込められたことから、その質問の答えは容易に理解できる。
痛いほどに握られたその手の温もりが愛しくて、セレナはクスリと笑みをこぼす。


何がおかしいんだよ」
「ごめんね。ただ、考えてることは一緒なんだなって」


ようやく振り向いたサトシの目に映ったのは、少しだけ微笑むセレナの姿。
そんな彼女の表情がなんとなく面白くなくて、サトシはむっと頬を膨らませる。

“こういうのは駆け引きだよ”
そう言ったシュウの言葉が、なんとなく分かったような気がした。
彼はもしかすると、これを計算してあんなことを言ったのだろうか。
手に持った小袋を見つめるセレナだったが、その小袋はさっとサトシによってひったくられてしまう。
特に抵抗されることなく奪われた小袋の中身を覗き込むと、サトシは再び目つきが悪くなる。


「あの、サトシ……?」
「シュウに買ってもらったのか」
「えっと、返してくるね。やっぱり悪いし……
「いや、いい。ピカチュウ、マップ」


サトシの言葉を受け、ピカチュウは彼のズボンのポケットから折りたたみ式のマップを取り出した。
なんという息の合い方だ。
それを受け取ると、サトシはマップをしばらく眺め、ここと同じフロアにある雑貨店を指差す。
指さされたその雑貨店は、最近若い女性に人気がある有名な店である。


「ここに行こう。ソレよりいいものを買ってやる」
「いいの?」
「遠慮はナシな!拒否されると虚しくなる」
「ふふふっ、じゃあ、お願いします」


2人は店に向かって歩き出す。
繋がれた手はそのままで、セレナは空いている左手も彼の腕に絡めてしまう。
突然縮まった距離に、サトシは今更どきりと胸が高鳴ってしまった。
喧騒の真ん中を歩く二人。
そんな喧騒に紛れるように、セレナは小さく呟いた。


「私もね、嫉妬、してたんだ」
「え?なんか言ったか?」
……ううん!なんでもない!」


胸を支配していた黒い感情が、すっと消えていく。
それが嬉しくて、愛しくて、セレナは彼の腕に自分の頬をすり寄せる。
まるで飼い犬が飼い主に甘えるかのようなその行為は、サトシの胸まで洗い流してしまう。
あとでハルカに誤っておかなくちゃ。
そんなことを考えながら、2人は人ごみの中に消えていった。



おまけ

「セレナに何買ってあげたわけ?」
「マグネットだよ。フォッコのね」
………
「嫉妬してるのか?」
「そんなわけないかも!」
「ほら」
「?」
「君にも買っておいた。アチャモのマグネット。こういうの好きだろ?」
「シュウ……
「お昼にしようか。奢るよ」
「ご、ご飯で機嫌とろうとしても無駄かも!」
「で、何が食べたい?」
……豚骨らーめん」
……全くもって美しくないな」
「余計なお世話かも!」


END