Mizudori’s home

二次創作まとめ

カノジョには敵いそうもない

【タイユニ】

ゼノブレイド3

■学パロ

■短編


「君はもう少しスカートの丈を長くした方がいいと思う」


急に投げつけられた言葉に、ユーニはフォークに突き刺したワッフルを頬張りながら目を丸くした。
対面に座る彼氏は、ナイフとフォークを駆使しながら几帳面にワッフルを切り刻んでいる。
このおしゃれなカフェでするには相応しくない話題が出たことに、ユーニの機嫌は少々傾いてしまった。
こんなところでもそんなクダラナイことを言うのか、と。


「それここで言うことか?」
「短いスカートが視界に入ったから指摘したまでだ」
「あーなるほどな。甘いワッフルを前にしてもアタシの魅惑的な太ももに目がいっちまったってわけね」
「ち、違っ…!」
「あれー?違うのか?」


眼鏡の位置を直す彼の背後に“ぐぬぬ”という文字が見えた気がした。
この堅物まじめな彼氏、タイオンは、同じ学校の生徒会長である。
成績優秀で教師陣からの信頼もあつい彼と、口も悪ければ服装も乱れているユーニのカップルは、校内でもそれなりに目立つ存在だった。
異色、という言葉がよく似合うこの二人のデートは、きまって放課後に行われる。
甘いものに目がないタイオンが、男一人で行くには気が引けるからという理由で誘ってくるカフェでスイーツを頬張る。
それが二人の決まったデートコースだった。

今日もまた、制服姿のまま入ったカフェで定番メニューのワッフルをつまんでいた。
イチゴや生クリーム、バニラアイスがふんだんに使われているそのワッフルは、食べる前から甘いとわかるビジュアルをしているが、そのワッフルを前にしてもタイオンが投げかけてくる話題に甘さは一切なかった。


「もしかしてアレか?“わが校の生徒である自覚を持って…”とか言うつもりか?」
「そんな堅苦しいことを言うつもりはない」
「じゃ別にいいだろスカートの丈なんて」
「よくない」
「なんで」


ワッフルの上に乗っているバニラアイスが少しずつ溶けだしている。
カリカリしたワッフルに溶け始めているアイスを浸して食べるとかなり美味しい。
人気の理由がわかるようだ。
ワッフルの甘さに舌鼓を打ちながら組んでいた足を組み替えると、タイオンはふっと視線をそらし気まずそうに口を開いた。


「…目のやり場に困る」
「はぁ?」
「あとそうやって足を組むと見えるかもしれないだろ」
「ぷっ」
「笑うな」


あまり言いたくはなかったのだろう。
視線をそらしているタイオンの表情はむっとしていた。
その表情がなんだか可愛らしく見えて、思わず笑みがこぼれてしまう。
可愛い奴。そう心の中でつぶやいて、また足を組み替える。


「なるほどねぇ。可愛い彼女の足を見ていいのは自分だけだってこと?独占欲強めだなぁタイオン」
「だ、だからそういうことじゃない!これはモラル的な問題であって…」
「はいはい、わかったわかった」
「あっ、おい!」


苦しい弁明をしようとするタイオンを軽く流し、ユーニは手に持っていたフォークでタイオンのワッフルに乗っているイチゴを突き刺し、そのままぱくりと食べてしまった。
最後にと残しておいたのに。
絶望の色が滲んているタイオンの目は、そう語っていた。
大げさな反応が面白くて、ユーニは口の中のイチゴがこぼれないよう手で口元を抑えながら小さく笑う。


「なんだよその顔」
「なんで僕のを盗るんだ。自分のがあるだろ!」
「おっ、そうだった。アタシものもイチゴ乗ってるやつだった。お詫びにやるよ、ほら」


そう言って、ユーニは自分の皿に乗っているイチゴにフォークを突き刺し差し出した。
このまま食べろということなのだろう。


「君はまたそうやって適当に誤魔化して…!」
「あ、いらねーの?じゃあアタシが食べようかな」
「た、食べないとは言ってないだろう!」


急いで訂正すると、彼女は勝ち誇ったような笑みを浮かべながら再びイチゴを差し出してきた。
自分のワッフルにもイチゴが乗っていることを忘れていたなんて絶対嘘だ。絶対わざとだ。
揶揄うようないたずらな笑みを浮かべているユーニの顔を見て確信するタイオンだったが、だからといって彼女が差し出している甘く大きなイチゴを拒絶するという選択肢はない。
周りの目を気にしつつ、タイオンはユーニから差し出されたイチゴを遠慮がちに食べた。

甘酸っぱい。
むっとしながらもユーニを見つめると、彼女はやはりいたずらな笑みを浮かべながら頬杖を突き、こちらを見ていた。


「顔、赤っ」
「うるさい」


自分の顔が火照っていることくらい随分前から気付いていた。
いちいち指摘される謂れはない。
大体なんなんだ。いつもからかうような行動ばかりとるのは。
お陰で彼女といるときはいつもペースを乱される。
冷静ではいられなくなる。
そんな自分が嫌で、むずがゆくて、無性に恥ずかしくなる。
きっとこのユーニという彼女には、一生敵わないのだろう。
甘い甘いワッフルを食べながら、タイオンは苦い思いに浸っていた。


********************


生徒会の仕事は多岐にわたる。
学校行事の運営に備品の手配、さらには雑用。
自ら望んでなった立場ではあるが、この多忙さは正直予想外と言えた。
放課後になると毎日のように教師や各部の部長たちから寄せられる依頼にこたえる日々は、やりがいを感じるとともに疲労感も覚えていく。
茜色に染まる空を生徒会室から眺めながら、タイオンは一人ため息をついた。
今日は少し帰るのが遅くなりそうだ。
放課後ユーニと過ごせる時間は作ってやれそうにない。
“先に帰ってくれ”とメッセージを飛ばした方がいいだろう。

気分転換のため生徒会長席から立ち上がり、窓から外を眺めながらブレザーの内ポケットに入れたスマホを取り出したその時だった。
真下のグラウンドで、見慣れた人物が複数の男と立ち話をしている光景が視界に飛び込んできた。
ユーニである。
レンガ造りの花壇に腰かけ、タイオンの知らない男子生徒たちと談笑している彼女はやけに楽しそうで、小さな痛みが胸を刺す。

ユーニは明るい性格で、男勝りなタイプだからこそ男の友達も多い。
彼女を囲っているのは恐らく同じクラスの男子生徒たちだろう。
彼女が男女分け隔てなく友人が多いことは付き合う前からよく知っていたが、やはり知らない誰かと仲良さげに会話している光景を目にすると胸が痛くなる。
器が小さいだとか独占欲が強いとか、そんな風に思われたくないから問いかけたことはないが、本当は自分が彼女にとって何番目の存在なのか気になって仕方がなかった。

幼馴染のノアやランツには流石に負けるだろう。
あの二人にも彼女がいるとはいえ、やはり過ごしてきた年数が違うのだから。
だが、その理論で言えば別の学校に通っているというもう一人の幼馴染、たしか名前はヨランと言ったか。その男にも負けている気がする。
ということは、最高でも4番目ということになる。
だが、幼馴染以外の男たちの中で自分が一番であるという保証もない。


「はぁ、何を馬鹿なことを考えているんだ僕は」


誰もいない生徒会室でつぶやかれた独り言は、誰の耳に入ることもなく溶けていく。
何番も何も、自分はユーニの彼氏じゃないか。いちいち気にするようなことじゃない。
そんな女々しいことで思い悩んでいたって仕方がないじゃないか。
自分自身にそう言い聞かせ、タイオンはスマホでユーニにメッセージを送った。


《生徒会の仕事が終わりそうにない。今日は他の誰かに相手をしてもらってくれ》


我ながら冷たい文章だと思う。
だが、これ以上の気遣いができるほど、今のタイオンの精神状態は安定していなかった。
きっと疲れているからこんな面倒な思考に陥るんだ。
すこし散歩でもしよう。
壁に掛けられた時計にちらりと目をやり、タイオンは重い足取りで生徒会室を後にした。


*********************


気分転換のため校内をぐるっと一周し、帰ってくる頃には既に日は茜色だった空が暗くなり始めていた。
あれから20分。頭が冷えたとは言い難いが、先ほどよりは集中できるだろう。
さっさと雑務を終わらせて帰ろう。
そんなことを思いながら生徒会室の扉を開いたタイオンは、中の光景を見て一瞬固まった。
生徒会室の窓から外を眺めていいる一人の女子生徒の姿があったのだ。
風に揺れるあのミルクティー色の髪には見覚えがある。ユーニだった。
生徒会室に入ってきたタイオンの姿に気が付いた彼女は振り返り、いつも通りの様子で“よう”と手を挙げてくる。


「ユーニ、なんでここに」
「んだよ、いちゃ悪いか?」
「君のことだから誰かに誘われてどこかに遊びに行ってるものだと」
「あー、誘われたけど断った」
「何故」


振り返った彼女は窓に背中を預け、開け放たれた窓から吹き込むわずかな風に髪をほんの少し乱しながら、タイオンをまっすぐ見つめている。
彼女の背中越しに沈みゆく真っ赤な太陽が、ユーニの顔を儚く、そして綺麗に演出していた。


「今日はタイオンと一緒にいたかったから」


その言葉には核弾頭並みの威力がある。
きっと小賢しい彼女は、すべて計算の上でこういうことを言っているのだろう。
分かってる。分かっているはずなのに、どうあがいても心が躍るのを抑えられない。
ほころびそうになる口元を必死で抑えながら、タイオンは懸命に平然を装った。


「…邪魔しないでくれよ?」
「はいはい」


そそくさと生徒会長用の椅子に腰かけると、ユーニはそんなタイオンから視線を逸らし、また窓の外へと視線を戻した。
溜まりに溜まった各部からの申請書に一枚一枚サインとチェックを入れていくその単調な作業は、余計な雑念が入り込みやすい。
視界の端に見えているユーニが気になって仕方がない。
ユーニの髪が風に触れるたび、意識がそっちに持って行かれてしまう。
彼女がこの生徒会室に襲来したことで、タイオンの集中力は限界を迎えていた。


「…ユーニ、後生だ。頼むから別の教室で待っていてくれないか」
「はぁ?なんでだよ。アタシ邪魔してねぇだろ?」
「邪魔はしていないが、君がいるとどうも集中できないんだ」


ペンを置き、頭を抱えながら言葉を吐き出すタイオン、
そんな彼の様子を見たユーニは、例の何かを企んでいるような笑みを浮かべ始めた。
あぁ、これはまた面倒なことを言い始めるぞ。
覚悟したタイオンの予想通り、彼女は窓際から離れ、タイオンが腰かけている生徒会長用の椅子の背もたれに手を突き、顔を覗き込みながら言ってきた。


「アタシと二人きりだと緊張するとか?」


正直って、図星だった。
ほとんどの生徒が下校した校内。誰もいない生徒会室。暗くなり始めた空。
そんな中で好きな人と二人きりになって、緊張するなという方が無理だろう。
彼女は分かっていない。この堅物な彼氏に自分がどれほど好かれているのかを。
だがタイオンは、いつも彼女に言葉や態度で弄ばれている分、今回ばかりは素直に認めたくなかった。
たまには逆襲してやりたい。そんな気持ちが、彼を少しだけ大胆にさせる。


「…違う」
「ふーん。じゃあなんだよ」


面白くなさそうに唇を尖らせるユーニ。
そんな彼女の腕を引き、細い腰を強引に引き寄せると、小柄なユーニの体はあっけなくタイオンの膝の上に腰かける形となった。
急に膝の上に座らされ、驚くユーニを逃がさないよう腰に腕を回して捕まえる。
目の前に迫った彼女の青い目を見上げながら、タイオンは赤くなった顔を隠すこともせず言い放った。


「こういうことをしたくなるからだ」


ユーニの大きな瞳が丸くなっていく。
どうやら少しはタイオンの行動に驚きを覚えたらしい。
ざまぁみろ。いつもからかってくる罰だ。
心の中で優越感に浸っていると、自分の足に彼女の白い太腿が当たっているのがズボン越しに分かった。
短いスカートが、引き寄せた拍子にたくし上がり、生足がタイオンの体に触れている。
それを実感した瞬間、思わず息をつめた。
そんな彼の隙を、ユーニが見逃すはずもない。
彼女の口元に浮かんだ得意気な笑みは、形勢逆転の合図であった。


「急に盛るなよなー。急にそんなことするからスカートめくれちゃったじゃん」
「盛ってない!というか、そもそも君がそんなにスカートを短くしているからだろう!」
「だって、」


タイオンの膝の上で、ユーニは足を組んだ。
半分めくれ上がったスカートから覗く白い足はやけに艶めかしくて、いけないと思いつつも視線を奪われてしまう。
そんなタイオンを挑発するように、ユーニはまたあの笑みを浮かべる。


「お前、こうでもしねーと手出してこないし」
「っ」


首から上が熱くなっていく。心臓の鼓動が急激に早くなって、タイオンを急かし始める。
ユーニと付き合ってから早半年。潔癖でまじめなタイオンは、未だユーニにキス以上のことができていなかった。
したくないわけではない。むしろしたい。切実にしたい。
だが、欲をぶつけて彼女に嫌われたくないという臆病な心の方が勝っていた。
 
どうやら、痺れを切らしたのはユーニの方だったらしい。
露出した白い足が、タイオンにとってどれほど脅威的な存在になり得るか分かっていながら、彼女はそれを武器として使っているのだ。
思わず生唾を飲み込む。
自分を見下ろしているユーニの瞳は、まるですべてを受け入れるかのように優しく細められていた。
そんな彼女の優しさに甘えるように、タイオンは彼女の唇に食らいついた。


「んんっ、」


ユーニの口から吐息が漏れる。
舌が絡み合い、深く深く相手を求めるようなキスだった。
こんなことをしていいのだろうか。
そんな迷いにも似た感情は、ほんの1分足らずで塵となって消えてしまった。
たとえこればユーニの策略だったとしてもかまわない。
彼女の誘いに何度も屈してしまうのは悔しい気もするが、もう我慢できそうもなかった。

唇が離れると、互いの舌先から別れを惜しむように唾液の糸が引く。
その光景はやけに淫靡で、生徒会室という場所には不似合いなユーニの熱っぽい視線がタイオンを興奮させた。


「……やっぱ盛ってんじゃん」
「挑発してきたくせによく言う」
「ここ、生徒会室だよな」
「…あぁ」
「いいのかねぇ、こんなところでこんなことして」


タイオンのネクタイをするすると外しながら、ユーニは笑う。
その頬は淡く紅潮していて、行動と言葉に反して少しの恥じらいが見て取れた。
今更何を言っているんだ。君が始めたことだろう。
引き返そうとしたってもう遅い。その気にさせた君が、全部悪いんだ。


「君のせいだろ、ユーニ…」


そうささやいて、タイオンは再びユーニの唇を貪り始めた。
舌を絡ませながら、空いた左手はそろりそろりと彼女の白い足へと向かう。
そっとスカート中に手を差し込んだ時、ユーニの肩がビクリと震えたのを感じ、タイオンは事の始まりを実感するのだった。