Mizudori’s home

二次創作まとめ

恋についての蜜談義

【サトセレ】

■アニポケXY

■未来捏造

■SS

 

***

 

「だからさ、悪かったと思ってるって。……うん、ごめん。……うん」


端末を耳に押し当て、辛気臭い顔で電話している幼馴染を、サトシは枝豆を頬張りながら眺めていた。
端末に電話が掛かってきた途端、シゲルはあからさまに嫌な顔をしたが、“出ろよ”とサトシが促したことでこの通話が始まった。
どうやら電話の相手は交際相手の女性らしい。
端末のスピーカーから、わずかに女性のキンキンした怒鳴り声が聞こえる。
なんだか大変そうだな、と他人事のように思いながら、サトシは三杯目のジントニックに口をつける。


「はぁ、疲れた」
「お疲れ」


ようやく通話が終わったらしく、シゲルは端末をテーブルに置き、何杯目か分からないソルティドッグを一気に飲み干した。


「仕事以外でこんなに疲れるなんてどうかしてるよ」
「そんなに嫌なら別れればいいのに」
「それが出来るなら苦労はしないよ」


膝上で寝息を立てているピカチュウを優しく撫で、サトシは胡瓜の浅漬けに手を伸ばす。


「お前モテるから大変そうだな」
「別にモテないよ」
「そういえばさ、シゲルって昔からそうだったよな。カントー旅してた時から女侍らせてたっていうか」
「ブフッ!」


サトシの発言に驚いたのか、シゲルは飲んでいたソルティドッグを盛大に吹き出してしまう。
“うわ汚ねっ”と笑いながら、サトシは自分のおしぼりをシゲルへと放り投げる。
それを受け取ると、シゲルは咳き込みながら濡れたテーブルや自分の服を拭う。


「侍らせてるって何だよ
「応援団引き連れてたろ?いいぞーいいぞーシーゲールー!頑張れ頑張れシーゲールーゥ!って」
「カクテルぶっかけられたいの?」


半笑いでからかってくるサトシに苛つき、睨みつけるシゲルであったが、付き合いの長いサトシ相手には全く効果がないらしい。
当のサトシは、最近イケメン研究員として名を馳せているシゲルがカクテルを吹き出す様に爆笑している。
そうとう酔っているようだった。


「そんなに彼女取っ替え引っ替えしてさ、ちゃんと好きなわけ?」
「好きだよ。好きになったから付き合う。価値観が合わなくなったから別れる。ただそれだけ」
「ふーん。俺には良くわかんないな」


4杯目のジントニックが運ばれてくると、サトシはすぐに口をつける。
それほど酒に強いわけでもないのに、彼はいつもハイペースだ。
まぁ同じマンションに住んでるわけだし酔いつぶれられても特に問題はないかと考え、シゲルは止めることなく自分も酒を煽る。


「そういう君の方こそどうなの?浮いた話を全然聞かないけど、彼女とか作らないわけ?」
「うーん。ていうか俺、そういうのよく分かんないんだよな。付き合うとか付き合わないとか」


昔からサトシは色恋沙汰には弱かった。
明らかに好意を寄せられているのに全く意に介していなかったり、告白されても特に進展することなく関係を終わらせていたり。
シゲルからしてみれば、チャンスを自らことごとく潰しているようにしか見えない。
決してモテないわけではないため、それがどうしても勿体無く感じてしまうのだ。


「好きな女の子とかいないわけ?」
「そりゃあいるよ。カスミとかハルカとかヒカリとか、アイリスもユリーカもみんな好きだよ。けどそれってさ、仲間として好きなんだよ。みんなが言うような、“恋愛感情での好き”がよく分からなくて」


思春期を迎えたあたりから、サトシの周りの女子たちはじわじわと色めき立っていった。
そういったことに割と関心が薄かったヒカリでさえも、女子会なるものに参加し、恋バナという得体の知れない話し合いをしているようだ。
彼女たちから“サトシは彼女を作らないのか”と質問されることも多く、その度に曖昧な返事をしていた。

好きな人はいる。
けれどそれは恋愛感情ではない。
そんなことを、タケシから言われた記憶がある。
じゃあ、恋愛感情って何だ?
そんなことを考えているうちに、サトシはいつの間にか酒が飲める年齢へと成長してしまっていた。


「本当にいないの?1人でいる時その人のことをいつの間にか考えてたり、突然その人に会いたくなったり、その人が他の男といるとイライラするような、そんな相手」
「うーん


そう言われても、やはり思いつきそうにない。
女友達はそれなりにいるが、その中の誰かのことを特別深く考えたり、他の男と一緒にいてイラついたことなど一度もない。
もしかすると自分が気付いていないだけで、無意識にそんな感情を抱いているのかもしれないが

顎に手を当て、そんな相手が居ただろうかと考えるサトシ。
そんな彼を見つめていたシゲルだったが、テーブルに置いた自分の端末が震えていることに気が付き、視線を落とす。
どうやらメールだったらしい。
そのメールの差出人名を見て、シゲルは一瞬だけ目を丸くした。


「ん?誰からだ?」
「セレナ」
「セレナァ?」


思いもよらない人物の名前が飛び出し、驚くサトシ。
自分と同郷の幼馴染と、カロスを一緒に旅したカロスクイーンの彼女との接点が掴めない。
サトシも参加した著名人が集まるパーティーに2人とも出席していたことはあるが、シゲルとセレナがメールを送り合うほどの仲だとは知らなかった。


「お互い君の知り合いってことで親しくなったんだよ。連絡を取り合うくらいだけどね」
……ふーん」


シゲルからはともかく、セレナからは何も聞かされていない。
その事実は、サトシを少しだけ不機嫌にする。
じーっとこちらを見つめてくるサトシの視線が何だか居心地が悪くて、シゲルは、返信しようとしていた指を止める。


「なに?」
「シゲル、お前、セレナには手を出すなよ?」
「は?」
「お前手早いからな。セレナに手出したら俺が許さねぇからな」


どうも呂律が回っていない。
4杯目のジントニックで完全酔っ払ってしまったらしいサトシは、頬を赤く染めながらシゲルを睨む。
突拍子も無いことを言い出すサトシに、思わずキョトンとしてしまうシゲル。
なぜ彼がセレナに対してそこまで過保護になっているのか、シゲルには分からなかった。


「なんで?」
「なんでもだよ!セレナはお前が手を出していいような人じゃないんだよ。だからだめ」


理由になっていないが、サトシとしてはどうしてもシゲルにはセレナにちかづいてほしくないらしい。
端から見ればそれはただの独占欲にしか見えない。
果たしてサトシ本人はそれを独占欲として認知しているのだろうか。
そんなことはシゲルにも分かるはずがない。
ただ1つ分かることは、シゲルはセレナには絶対に手を出さないということだ。
何故なら、彼女の気持ちはシゲルもよく知っているから。


『サトシの誕生日に何か料理を作ってあげようと思うんだけど、何がいいかな?』


こんなメールをわざわざ送ってくるあたり、セレナはサトシにぞっこんなのだろう。
そして対するサトシの方も、そんな彼女に無意識な独占欲を発揮している。


「不器用って大変だな」
「え?」
「なんでもないよ」


そろそろ酔い潰れそうなサトシを見るに、この辺で水をもらった方がよさそうだ。
こうして2人の夜は更けていく。
明日はサトシの誕生日だ。
きっとセレナと会う約束をしているに違いない。
二日酔いを見舞わせてやろうと、シゲルは意地の悪い考えを持っていた。


END